ケータイ小説かく語りき

また何だか、にわかにケータイ小説が何とか。



ケータイ小説というのは、携帯電話のみで連載、配信している小説の事だそうだ。
実際に読んでみても、正直勢いだけはあるが、流れが出来ておらず基本的に意味不明で非常に読みづらいというのが感想。
しかし…



「ダメです…お願いですから、やめて、やめて下さい…!」
「ねぇ、いいじゃん…ね、ちょっとだけ、大丈夫、店の人には言わないからさぁ!」
後退もはげしい、脂ぎった男が、にたりとだらしの無い笑みを浮かべつつ、美樹の脚を押し広げようとする。
「違います、そうじゃな…! 店の人、呼びますよ!」
「いいだろ、な、もったいぶるなよ。俺は客なんだよ? 金だって…ほらぁ!」
どこから取り出したか、数枚の札を無理に美樹に握らせ、更に脚を広げようとする男。こうした、所謂『迷惑な客』に美樹は慣れていない。
今までの客がききわけが良すぎた。この世界では『迷惑な客』の方が圧倒的に多い。
「いやあっ…やめてっ!」
反射的に男を押しのける美樹、思わぬ力が入って、男はベッドからずり落ちしたたかに頭を打ち付ける。勢いのまま、インターフォンへ手を伸ばすが、「っつぅ…」とつぶやくか男は美樹の腰に腕を絡め、そのまま美樹を床へ押し倒す。
「お前…ってえなぁ! 俺は客なんだよ!」
頭の痛みと、女に倒された恥、そしてえも言えぬ勘定で高揚している男は、美樹を頭を強引に振り向かせるや、その頬を思い切り張り倒した。
「客をなめるな! 俺を馬鹿にするな! 馬鹿女がっ!」
二発、三発と続けて美樹の頬を張り倒し、紙を掴んで床に叩きつける。
「ひひっ…ひ…やっとかよ…ひひ…」
片方の唇だけ、引きつった笑いを浮かべて男は美樹の股間を押し広げ、貫いた。

美樹の悲鳴…絶叫が店に響き渡った刹那、店長である二郎と従業員の対応は素早かった。
個室のドアを二郎は思い切り開け放つ。
全身の力が抜けぐったりとしているが、両の目の焦点がふらふらとさまよっている美樹、行為の最中に侵入者に文字通り、目を皿の様にしてこちらを見つめる男と視線が合うや、二郎は男の顔に思い切り蹴りを叩きつけた。
そのままの勢いでベッドの角に頭をぶつけ、悶絶する男。
二郎は男の髪を掴み上げると、そのまま仰向けに引き倒し、男のでっぷりとした腹に膝を入れる。音にならない音が響くたび、男はびくんびくんと跳ね上がる。

「がっ…かは…ま、っで、までっ!」
左にやや傾いた鼻から黒味がかった血を垂らし、男は何かを言おうとしている。
「その女が…べっ…あ…」
構わず、二郎は男の顔面を殴りつけた。男が更に何かを言おうとする度、二郎は男を殴り、二の句をつげなくする。
「ちょど、いれたかただ…えうっ…」
「ゆぶじ…だが…ごめで…」
血と涙でぐしゃぐしゃになった男の顔面と、どす黒い血が付いた拳を見つめて、二郎はぼそぼそと話し出す。
「お客さん…この手の遊びにだって、ルールってもんがあんだよ…。」

「あんたさ、金で何でも買えると思ってんだろ?」
「あぐ…」
この手の『始末』は、店長にもなった二郎は十分に慣れている。
殆どの『迷惑な客』には、僅かに『気合』を入れる…いや、その前に頭を床にこすり付けんばかりに土下座する連中ばかりで、迷惑料と称する割増の金をふんだくった後は、出入り禁止の一筆を書かせ、女にはわずかに色を付けた手当てを渡せば、それで事は済む筈だった。しかし、今回は違う。
相手が美樹だった。
男を殴り続ける二郎を、ぼんやりとした顔で美樹が見ていた。

「確かにな、金さえ握らしゃ何でもする女もいるさ。でもな、うちは違うんだよ。」
男の頭を床に叩きつけ、みぞおちを蹴り上げる。男は声も出さずにぶるぶると震えながら、体をくの字に曲げる。
「女の弱みに付け込みやがって! 手前は何処の何様だっ! 屑が! 屑がっ!」
ごつ、ごつと低くくぐもった音をたて、二郎が男を蹴り上げるたび、男はびくんびくんと反応するが、徐々にその反応も鈍くなっていく。
定まらない意識の中、その様子を見ていた美樹は我を取り戻した。
「店長!だめっ!死んじゃう!」
何とかして二郎を止めようと、力が入らない腕で二郎の腕を取るが、美樹に気付くことなく男を蹴り上げる二郎。
「やめてっ!ねえっ!」
「あ…はいっ、店長っ!」
美樹は二郎についてきた従業員を必死の形相で見上げると、今まで呆気に取られていた従業員も二郎を止めにかかる。後ろから羽交い絞めにして、何とか男から二郎を引き剥がす。



とまぁ、ケータイ小説のフォーマットを、稚拙ながらもよしつね流に解釈して書いてみたものの、これを携帯電話で読むというのは、確かに辛いと思う。
ちなみにフォーマットはここから流用。正直、元ネタが元ネタなだけに、とても疲れた。




しっかし…これならばライトノベルの方が512倍は楽しめるぞ。
実際問題、ライトノベルも確かに中二だったり文章になってないものも多数あるのだけれど、それでも上遠野氏とか秋山氏とか、野尻氏の小説*1を読んでいると、ガイドラインに紹介された文章が小説ってアンタどれだけ…!と思うはず。


題材にしてもレディースコミック以下。
実際にこんな展開になったら、その風俗店をぶっ潰す覚悟じゃなきゃ出来ないし、風俗店の店長、店員は『基本的には』体育会系で最低限の教育はされているので、下手なサラリーマンより余程、出来ている場合もある。そも、こんな事をしたら、その風俗店の背景にいる人達の報復が、とか。突っ込みどころは突っ込むのが馬鹿馬鹿しい位ある。


兎にも角にもすごいのが、これが120万部も売れちゃうってこと。
誰か、どうして売れたのか僕に教えてください。

*1:ごめん、挙げた作品がひじょーに偏っている、というのは言わずともがな。しかし、説得力のある文章、という意味では挙げた人選に間違いは無いと思うのだけれど、如何なものか