愚痴にも芸を…

ひっさびさに会社の愚痴でも吐こうかと思うのですが、ちょっと芸を凝らしてみました。

「違う!違う!そうじゃ、そうじゃない!」
「君を離せない〜力尽きそおさぁ〜♪」
「誰が歌えと言ったんですか、だれが!」
「だあってぇ〜〜〜〜〜…」


「いいですか? 手順書というのはですね、」
「要点を『簡潔』に手順の解説は『細微』に、でしょう?もう。」
「解っているじゃないですか。流石に。」
「じゃ、なんでこれじゃ駄目なんですか〜?も〜!」
「だから、これは『解っている人』が書いた手順書、だからですよ。」
「どれだけやっても駄目なんですかもう。レビュー通す気無いんじゃないですかもう。」
「ち〜が〜い〜ま〜す〜。ちゃんと見ているからゴーを出さないんです〜。」
「じゃ、これのどこがどう悪いか、もう一回教えて。」
「んー、じゃ、ちょっと別の例題で考えてみましょうか。」
「はい?」


「それではですね…ある日曜日、外はとってもいい天気なのにぐーたらなOLさんは、料理をするのもおっくう、じゃ、何か買い物しに行くにも、メイクも面倒だし昨日は痛飲で外に出る気力が全然出ません。でもお腹が空いてきました。さて困った。」
「別に困らない。買い置きのぽてちでとりあえず我慢する。」
「別に貴女の事を言っているのではありません。」
「見てきたような事を…あ…もしかして、」
「ストーキングもしていません。続きを。しかし世の中、ネコ型じゃないけれど、買出しくらい出来るロボットがいたんです。で、このロボットに弁当を買わせるよう、オーダを出しましょう。じゃ、出してください。」
「死傷者を出さない。無反動砲は前後に気をつける。間違っても逆に構えない。」
アーノルド・シュワルツェネッガーじゃありません。どこの世界にロケットランチャー装備で買い物をするロボットがいるんですか。…このロボは。メイド型でもありませんが、人間の成人程度の知識があり、自分で判断することが出来ます。
「いいじゃない別に。」
「よくありません。これは手順書作成の例題、なんですよ。」
「はーい。」
「…じゃ、続き。このロボットにオーダを出してください。」


「できましたよ。はい。」
「音読してください。」
「…変な趣味でもあるの? 私の声に萌えるとか。」
「いいから。もう。さっさと。」
「はーい。」


  1.弁当屋までの道程、屋号を教える。
  2.弁当の種類を指定する。


「うーん、1/3程度正解。」
「えー、だって、普通の人間ならば、これで十分じゃない。」
「しかし、手順書のオーダとしては駄目です。」
「あ、お金渡していない。私ったらあわてんぼさん♪」
「…今に始まったことではありませんが…それもありますが、まだ駄目です。」
「えー?わかりません〜?」
「この手順には『もしもの時』が抜けています。ごっそりと。」


「いいですか? 貴女の空腹を満たすだけならば、別に何だって、それこそ100円ショップで中国産や韓国産の怪しいカップ麺でもいいんですよ。しかし、会社のシステムを操作する場合はそうは行きません。」
「悪かったわね。」
「ええはい。で、まずは5W1Hなのですが、この辺は成人の知識があれば、ある程度はクリア出来ます。しかし、結果にブレを出さないようにするには『次の手段』を用意しなければならないのです。解りますか?」
「…携帯電話内蔵?」
「悪くないですが、その昨日が故障した場合は?」
ダッシュで戻る。」
「貴女だったらそうするでしょうが、このロボットはもっと賢いのです。」
「ほっといてよね、もう。」


「この課題の要点はこんな感じです。」
  1.目的地まで着けるか
  2.目的の弁当が買えるか
  3.上記以外の過大にあたった場合の処理
「ふむふむ。」
「1.は成人の考えが出来るのであれば、自分で考えて…例えば、誰かに道を聞くなり、地図から所在地を出すなどで対応できるでしょう。しかし、この『自分で考える』というのが実は最も、厄介な問題なのです。」
「どうして?便利じゃない。とっても。」
「おきらく脳の貴女にとっては。しかし、目的の弁当が買えなかった場合…例えば、値上げや売り切れで買えなかった場合の対応、待ち時間がかかりすぎる場合の対応、そういうフォローをしてあげないと、結果は予測の範疇外、コントロール下から外れてしまいます。そうなったらもうどこから見てもクライシス、になってしまいます。」
「お弁当一つで大げさねぇ。」
「この課題はシステムの話の例えです。誰も弁当の好みを話している訳じゃないんですよ、全く。」


「いいですか、この場合『目的の弁当が買えなかった場合』の行動を指定してあげるんです。例えば、カルボナーラが無ければペペロンチーノ、ペペロンチーノが無ければ、ボンゴレボンゴレも無ければ撤収、というようにね。」
「なるほど、これだけ指定すれば、コントロール下に置けるね。」
「一番危険なのは、先に言った『自分で考える事が出来る』という部分。指定が無ければ食べたくも無く高いヒレカツを買ってくるかもしれないし、その店で一番まずい牛丼を買ってくるかもしれない。とにかく、予測が出来ない行動を取らせては、手順書として機能しているとは言えないのです。」
「なるほど。やっと解ったわ。」
「よろしい。」


「無論、だからと言って、必要以上に細かく書きすぎると、今度は手順書を作るコスト、手順書を修正するコストがかかりすぎて不経済になります。」
「面倒だもんね、メンテナンスって。何でも。」
「貴女のメンテナンスほどじゃないですよ。で、判断をしてもいい箇所は『絶対とってはいけない行動を指定』する。そして、余計な判断で結果が予測できなくなる箇所は『行動の8割を限定、それ以外の状況ならば問い合わせる』とするんです。」
「なるほど…。」
「いずれにしても、貴女の場合は書かなさ過ぎる。書き過ぎの方がまだ良い。」
「…わかりました。」


「手順書の目的は、手順の再確認と結果を限定する、だけではなく、究極的には『担当の全戦力化』というのもあるんです。」
「ちょっとそれは、むりなんじゃない?」
「流石にソロで全部、というのは確かに無理ですが、手順書にていつも同じ結果が出るならば、その部分を派遣社員やアルバイトにさせる等の、社員を使わずコストを下げる、という手段が取れます。また、選任に人間が何らかの事情で対応できなくても、他の人間で対応可能となります。」
「ふむふむ。確かにそうね。」
「選任の人間は必要です。核を作らないと最終的な落としどころが見えませんから。でも、ルーティンワークに限れば、結果が同じならば誰が対応してもいい筈です。」
「ふぅむ…いや、やっぱり凄いね。」
「…と、偉そうに言いましたが、ここまでならば、その手の本やサイトを見れば、最初の数ページに書かれているものなんですよ。貴女は全くそれすら…」
「じゃ、本に書かれていないノウハウは?」
「それは、僕の飯の種ですから、そんな簡単には。」
「それじゃあ、リーダーのところに永久就職したら共有してくれるの?」
「なっ、ばっ、三十路の男をからわないで下さい。」
「へへへっ…でも、本当に冗談だと思う…?」



これは事実を元にしたフィクションであり愚痴です。実在の人物・団体・組織等とは一切関係はありません。