旋光の輪舞 Rev.X xbox360 Rev.Y

…とまぁ、そういう訳で、今、僕は、車を走らせている。ナビには、xbox360にコントローラが二つ。
何で、朝っぱらからこんなにやる気になっているかというと…話は一週間前に遡る。


「でもさ、シューティングって、名前の通りただ撃つだけなんでしょ? 飽きてこない?」
「それが違うんだなぁ。いまやシューティングは対戦の時代。昔の様に一人で黙々と遊ぶのもあるけれど、色々と工夫してるんだよね。」
「例えば?」
「そうだなぁ…今の一番のお気に入りは、旋光の輪舞センコロなんて略されているけれど、これがさっき言った対戦シューティング。」
「ふぅん。かわいいんだかアレなんだか、変な名前。でも、相手がコンピュータじゃ弱すぎない?」
「それは逆。コンピュータはいっくらでも強く出来るから。例えば、照準…コンピュータのキャラが僕のキャラを狙うとするでしょ?」
「うん。」
「そうすると、コンピュータは僕のキャラの位置を常に把握しているから…さもないと、ゲームのプログラムとしておかしいよね…だから、絶対に照準がぶれない。」
「狙いは絶対に外さないか…何かかっこいいね。」
「見ている分にはね。遊ぶ方としては困る。というより、ゲームにならない。」
「いかさまだもんね。それじゃ。」
「そう。駆け引きも何もあったものじゃない。意外性も何も無いから。」
「じゃあ、どうするの?」
「そうだなぁ…動きを人間臭くする。本職じゃないから良く解らないけれど。」
「どういう風に?」
「うーん、そうだなぁ、照準を甘くしたりとか。僕のキャラを中心に、ふた回りほど大きな円を設定して、その円に対して攻撃させるとか。」
「ふんふん。」
「そうすれば、照準がぶれることになるでしょ?」
「でも、それは逆に、照準が甘すぎない?」
「うん、だから、時間とか距離とかでその円を大きくしたり小さくしたりする。」
「距離が近くなったら逃げたりとか、時間が少なくなったら必死で追いかけたりとか?」
「そうそう! 良い読みだね! その通り。そういう要素を、上手く組み合わせたら、どんどん人間臭くなる、と。」
「なぁるほど。面白いね。ちょっと見てみたいな。」
「…へぇ、興味ある? 遊んでみる?」
「でも私、ゲーム機…」
「ああ、いいよいいよ、車で運ぶから。」
「親が居るから、あんまりうるさくも出来ないよ?」
「…ま、大丈夫でしょ。うん。」


これが一週間前の話である。
もう少し前の話しもしておいた方がいいかな?


そもそも、ネットでの出会いで、特に男女の出会いなんてものは、映画にあるようなロマンあふれるものなどちっとも無く、寧ろ殺伐としていたり、ネカマ…いわゆるネットオカマの事だ…だったりで散々なのが普通である。


僕は最初、同好の士が欲しかった。


ネットゲームではいい友人に恵まれている僕だったが、こと、電気を使わないゲーム…麻雀や将棋、モノポリージェンガ、トレーディングしないカードゲームetcetcとなると…なかなか遊ぶチャンスが無かった。
僕はゲームの駆け引きが大好きで『勝負に勝って試合に負けた』というシチュエーションが好きで、ゲームをしているようなものだった。
歳を経るごとに、その願望はどんどん強くなって行き…とりあえず、面子を集める事が出来たらいいなぁという程度で、掲示板やチャットでメンバー募集をしたのが始まりだった。


しっかしまぁ、世の中皆忙しいようで、最初はさっぱりだったが、物好きも居るのもこの世の中。彼女はその、最初の一人だった。
最初はボードゲームの話が出来る、いい友人と思ってメールやチャットで遠慮無く濃いネタを振ったが、意外に食い付きが悪い…と、よくよく聞いてみたら、ボードゲームはNEW人生ゲームが精々で、という事だった。
しかし、初心者を育てるのも、それはそれで楽しい。
ボードゲームの楽しさやカードゲームの駆け引きを、自分のエピソードを交えて、なるべく濃くならないように、けれどもちょっぴり深いところも混ぜつつ話すと、とても興味を示してくれた。こうなればしめたもの。パダワン、ゲットだぜっ!


そして…心底驚いたのが三週間前。
相変わらず、ゲームの話で盛り上がって、キーボードを打つのも面倒だから、とボイスチャットでという事になり…。
すまん、いままでずっと大学生くらいの野郎かと思っていたっ。
ま、その事もネタにして散々笑ったわけだ。


んでもって…デートに誘ったのが二週間前。
当然、期待はしていない。何故なら普通に美人ならば、普通にしているだけでお声がかかる筈だ。そも、ゲームが趣味って事ならば、それはもう、動く遮光土偶であっても文句は言えない。ちょっとも期待をしていないってのは嘘だけれども。
それでも、エメラルドより貴重なゲーム仲間が出来るならば…と。


曇天の新宿で初めて会ってみれば、いたって地味な、どこにでもいるOLさん然とした女性。
自分の事を棚に上げて言ってしまおう。見た目は中よりちょっと下。化粧はとてもナチュラル。というか…ほとんどしていない? でもスタイルは…まずまず…というより、とっても良い様に見える。
「こんにちは、初めまして。」
「あっ…どうもっ、はじめましてっ!」
ぶんっ、と風きり音がしそうな勢いで、彼女は僕におじぎをした。


最初こそ、何を話していいのやらと思って、本当にどーでも良い話をしていたが、ひとたびゲームの話になると、彼女のおしゃべりは止まらなかった。
そう、連日連夜のゲームトークによって、彼女は十分にボードゲームジェダイとしての資質を開花させていたのであった。


うーん、僕はこんなに軽い奴だったか?
いやいやそれより、こんなにさっくりと上手く行くはずが無い。新手の美人局って可能性も十分にある。ヲタは小金をたんまり持っているからなぁと思いつつも、車を反転させる気はちっとも無かった。
高速だったし。
それに、彼女の口から語られるゲームは、とても楽しそうに思えたから。


以降、Rev.Zに続く。