押井守 TOKYO WAR メディアファクトリー

監督の本を積極的に出版しているメディアファクトリーですが、今度は監督の処女作、TOKYO WARです。
これは、劇場版の機動警察パトレイバー2のノベライズとして、前世紀に富士見ファンタジア文庫から上下巻としてリリースされたものを加筆、修正。ハードカバーとして再版したものです。


監督の著書・・・例えば「獣たちの夜」やら「Avalon〜灰色の貴婦人」に比べると、これは圧倒的にディティールが足りない。
そも、今の監督ならばこういう題材は書かないか、こうした処理は行わないのかもしれない。
あ、知らない人の為にあらすじを書くと、自衛隊にも配備されている所属不明のF-16が突如、横浜ベイブリッジを爆撃。続いて所属不明のF-16の編隊が首都を目指し南下。あわや首都爆撃の危機と思われるや、南下した編隊が突如消失。これを機に自衛隊への不信、警察内部での勢力争いなどの要素が絡み合い、遂に自衛隊に治安出動が要請された・・・というのが導入部。


まぁ、こうもトントン拍子に治安出動が引き出される訳がねぇ*1とか、そもこれはパトレイバーじゃなくても良いんじゃないか?という大前提はあるものの、警察vs自衛隊のライトサスペンスとしては、まずまずのディティールで読めるものじゃないでしょうか。


僕としては「機動警察パトレイバー」という枷の中、よくぞここまでの話に持ってこれたものだ、と感心してしまいます。
しかも、テロが一般に認知されてきた現在ならともかく、10年以上も前にこういう予測をしつつ、話としてはおいしい要素をたくさん詰め込んでいますからね。自衛隊、警察、大人の恋愛、組織と個、テロリズム・・・。*2


加筆、修正も大幅という割には、通常の加筆、修正レベルだと思います。航空機の呼称やら某所での展開*3など・・・。


うーん、正直、「普通」の押井ファンが1,700円も出してハードカバーを買うほどの価値があるか、というと・・・すっごく微妙です。
どちらかというと、富士見版はかの末弥純が挿し絵を入れており、僕はそれだけでも立派な購入理由になってしまいますからねぇ・・・しかも、上下冊を買ってもハードカバーより十分安い。
今回の挿し絵も末弥純なら、絶対お勧めの完全版なのに。


という事で、過去に富士見版を読んでいるならば、興味がない場合は買わなくても良いと思えてしまいます。
まぁ・・・コアなファン向けとか、富士見版を読んでなければ、という程度、です。
それより、映画の方を見てしまった方が良いかも。
8月にはファミリー劇場でWXIIIまで一挙放送ですから。


ちなみに・・・。
監督の小説でディティールがとにかく面白いのは「立喰師列伝」。獣たちの夜も面白いけれど、神髄は立喰師の方。


実は最近、デート前の電車移動で1時間とか平気であるので、本は大量に読んでいるのだが・・・なかなか、批評を書きたくなるようなものを買っていないのもあるし、書ける時間も少ないです。
次は桜坂洋スラムオンラインを予定。これも挿し絵が実に良い。

*1:よしつねとしては、昨今の分裂民族主義を基としたテロが一定以上の被害をもたらした場合、警備出動はありうるかもしれない、と思う程度・・・ぬるい?色んな意味で?

*2:確かに、パトレイバー2を考えると、踊る大捜査線のモチーフになったような気も・・・と、思える節がある

*3:意外に大きいのはここだけか?