ドリヴン

木曜洋画劇場で流していたので、つい見てしまいました。いや、見たかったことは…見たかった。けれどっ!


この映画、IRL…インディカーレース*1を題材とした、レース物とバディ物…というより、師弟物を引っ掛けた映画、ナのですが…どれをとっても中途半端な映画になっています。


まず、レース物という観点から言うと、多少のレギュレーション違反くらいはまぁ、味付け程度で済むのですが車が一回転するような大事故なのに、レッドどころかイエローフラッグすら振られない*2というのは、本当にどうかと思う。これはレースに対する『危険なイメージ』を増長させる部分*3もあるので、個人的にも認められない演出です。
レギュレーションというと女性の取り合いでキレた新人ドライバーがインディカートを街中で爆走させてもお咎めが2万5千ドルという点も映画の見た目としてはともかく、演出としては認められない。どんな理由があるにせよ、ライセンス剥奪程度じゃすまないだろう。本当なら。下手すりゃチームの永久追放だってありうるくらい。


まぁ…この辺は映画的演出としてもいい。


よしつねが特にげんなりしたのは、チーム間での恋愛模様。とにかくドロドロなんですよ。
新人ドライバーが同じく新人でライバルのドライバーの奥さんへの横恋慕、しかもキレた挙句にインディカートで街中大暴走ですよ!
その他にも、スタローン扮するベテランドライバーとジャーナリスト、元嫁さんの三角?関係が酷い。しかも、ピットで監督と元奥さんが怒鳴りあうシーンとかもう…サイバーフォーミュラでもこんな演出、ありませんよ!*4


そして、よしつねが最も忌み嫌うシーンがレースでクラッシュしたレーサーをドライバーが助けるシーン。これは最悪。
レースというのは、ドライバーが速く走れば勝てる、というものではなく、メカニックがドライバーに合わせた精度の高い整備とセッティングを行ったり、監督が適切な指示を出したり、スポンサーがチーム活動を円滑にするための資金繰りを行ったりと、兎にも角にも、質の高いチームプレイの結果が勝利へとつながる、それがレースというものなのです。ですからドライバーが勝手にレースを止めるなんて許されないのですよ。
それを、ドライバー自身が怪我するかもしれない状況に自らを置いたり、ましてやいくら奥さんでも『助けに行って!』なんてピットオーダーを出せる訳が無い。寧ろ、そんな行為を目撃したら全力で止めます。普通ならね。


唯一まとも風に見えていた、バート・レイノルズ*5扮するチーム監督、最初はチームの勝利の為に冷酷とも思える作戦を提示したり、勝利の為にチームオーダーを駆使したりと実にレース監督らしい見せ場があったのですが…最後の最後でスタローンの脳筋節全開で萎える。


この映画の唯一の見所は普通の人が思い描くレースシーンや、クラッシュ、ドライバーの体感を上手にCGで表現しているところ、だけである。
インディを表現した『映像』としては、それなりに見られるものの…。
この映画にストーリーを求めるというのは、そもそも酷な話だと思いますね。


結論。
シルベスタ・スタローンはロッキー以外の脚本は書けない。
以上。

*1:F1が欧州主導で行われるのに対抗して、米国主導で行われているフォーミュラーレースがインディーカーレース。マシンのコンセプトもほぼ同等だが、一番の違いがマシンメイク。F1がコンストラクターによる独自技術を投入するのに対し、インディはイコールコンディションを徹底するために、シャーシとエンジンが複数の供給メーカからチョイスする事になる。これにより、激しいバトルが行われる。また、インディにはオーバルコースという楕円のコースを走るレースが設定されている。一見地味であるが、走る・曲がる・止まるの車の三大要素を駆使しなければ勝てないし、ワイド(車が横に連なる状態、並ぶ台数によって数字を頭につける。例えば、4台並んだ状態であればフォーワイド、となる)でのハートの強さが試される。そしてこのオーバルに対応するインディカートには、ウェイトジャッカーという油圧で車高と前後バランスを変化させる装置がある。F1ではアクティブサスの禁止に伴い、こうした装置も無いと思われるが…どうなんでしょう?

*2:インディではグランド・エフェクトカー…ボディ下に意図的に空気の薄い部分を作ることによって、車を地面に押し付ける力を得る機構を持つ車…が、未だ使用されているので、こうした事故は起こりうる可能性がある。何らかのきっかけでこのグランド・エフェクトが失われると、車は非常に不安定になり、これがスピンにより車が後ろ向きになると、そのまま『車が浮かんで』しまう危険性がある

*3:もともとドライバーに対してタイトなイメージのあるレースですが、安全性には驚く程の対策が行われている。事実、常識外のスピードで事故が発生しても、死亡事故が少ない、という点がそれを裏付けている。無論、危険な事には変わりはないけれどもね

*4:サイバーフォーミュラは言わずと知れたレースアニメ。近未来のハイテク満載フォーミュラマシンを駆るレースアニメ、だったのですが、OVAシリーズになると、ドライバーの能力がもはや超能力者並に強化されてしまったり、マシンの性能比べになったり、仕舞いにはどうやっても解釈の苦しい恋愛模様が展開されたりとと非常にバランスの悪いアニメになってしまった

*5:燻し銀。こーいうオヤジに僕はなりたい