柔らかい感じ
昨日*1はリア王-影法師という、ちょっとアレンジの効いたシェイクスピアを見に行ったのですが、なかなか良い。いや、寧ろかなり。
このリア王、物語は「リア王」そのもの*2なんですが、意匠が能という、和洋折衷の味付けがしてあります。無論、能がベースなので道具は手持ちを含めて殆ど無いし、衣装もブリテンの装飾から、烏帽子に一重*3、地謡に和太鼓といったものになっています。当然ながら桧舞台。
ここで、そもそものリア王の、よしつねが思うところを話しましょう。
実はよしつね、ウィリアム・シェイクスピアの中で「リア王」は最も好みでないが、最も深いと思う物語だと思っています。そもそも、原文からしてウェールズとかその辺のイギリス…というよりグレート・ブリテンの時代背景を知らないとちっとも楽しめないし、その状態で見ると阿僧祗クラスの傲慢爺が延々と戯言を吐くという物語にしか読めないんですよね。言い回しもくどくて難解、歪んだ愛情キモいし…となること、請け合いです。
で、じゃあ、そも脚本なんだからと舞台を見るとですね、これが前述の感想に加えて第5幕もありやがるくそ長さが加わるんですよ。そんな劇を続けていたら、キャストも観客もついて行けないんで、普通の公演は大幅にアレンジを加えるんですけれどね。
しかし、リア王の真に深いところは観る者の年齢により視点が変わるというところです。若い連中は三人の娘達にフォーカスし、歳を経るごとにリア王へシフトしていきます。特に道化とリア王の関係は最近の日本の高年齢者の関係を髣髴させる…そんなに難しく言わなくても、あれだ、歳を取ると偏屈になるが愛情を注ぐ対象を求めるってところでしょうか、その辺を如実に語っている訳ですね。
それから、これほどアレンジの多いシェイクスピアの作品も無いです。
さて。今回、観劇したリア王の感想を。
まず、幾つか残念だった点を挙げます。一番は能のテイストが薄いことです。一管で通せとまでは言いませんけれど、構えや運びはもっと能の動作を取り入れてもいいか*4と思います。
それから、ストーリーがコンパクトすぎるという点。本来リア王は、
- 80の爺さんが三人の娘に領土を分割するが、末娘が機嫌を損ね勘当
- 二人の娘のところに厄介になろうとするが、うざがって虐待
- キレたリア王、荒れた野の地で暴風雨とセメントマッチ
- フランスに嫁いだ末娘がリア王奪還の為に遠征
- フランス軍敗退、末娘は絞殺、リア王失明の後に絶命
以上の5幕から構成される、とんでもなく長い芝居なので、これを上手にまとめるのが演出の腕の見せどころではあるのですが、今回は第4幕が要素のみで、その他の幕も全体的にポイントを抑えつつ簡略化しています。
しかし、今回の芝居は、よしつねの不満点は芝居をやっていた濃い奴の見方であり、嗜み程度に芝居を見る人には逆に良い点となります。
上演時間は2時間以下ですし、意匠こそ能ですがリア王の基本的な要素は全て押えていますし、何と言っても全キャスト女性というのが、既存のリア王のイメージを一新してくれるのは間違いないです。んー、タイトルに「柔らかい」と付けましたが、何と言うか全体的に神楽の雰囲気って感じなのかな。
リア王は何回か観ましたが、最も見やすいリア王*5であることは間違いないです。