攻殻機動隊STANDALONE COMPLEX 凍える機械 徳間デュアル

攻殻SACノベライズの第二弾です。ノベライズとは言っても、外伝的な扱いで物語は本編に当たるアニメシリーズの要素を共有しますが、本編との絡みはほとんど無いです。
その分、微妙なテーマというか、招慰難民やタチコマといった微妙な部分をクローズアップしています。
招慰難民に関しては、現在〜近未来にて注目される問題ではないのでしょうか。というより、現在進行形で難民の問題はありますね。個人的には民族・国家間の紛争というのは、平均的な日本人である僕にとって、かなり縁の薄い話と思って育った少年時代ですが、今となっては北やら中東やらでごく身近な現実となっています。
そんな中、中東から・・・というのはちょっと無理があるかもしれませんが、やはり北の/北との紛争によって難民流入は十分考慮するべき問題、かもしれません。ま、まだまだ想像の余地のある・・・思考実験的な要素が多分に含まれていて、しかも小説内ではエンターテイメント性を打ち出すために、最後の最後で語られるネタがちょっとアレかなぁと思いますけれど、ね。
次にタチコマ。これはもういわずともがなの人気者ですが、今回は人間とAIの距離感を通して、差別というファクターを垣間見ることが出来るかもしれません。どうもAIというと、便利で都合の良いものに描かれる傾向がありますが、設定しだいではフチコマからi,Robotよろしく叛乱*1という事態もあるかもしれません。そして、タチコマのように「学習途中のAI」ってのは、人間の眼からすると、粗野で残酷で無垢・・・って、こりゃ人間の子供と一緒だね。うむぅ。
タチコマの性格設定は、開発者の趣味かもしれないけれど、非常にユニークというか・・・単純に面白い性格付けをしているもんだから、あまり気付かないと思うけれど、最終的に人殺しもしくはそれを支援する機械、というのを忘れてはいけないと思います。思考戦車という、ごっつい形態をとっているから面白いのであって、これが雌型でろり成分たっぷりの義体ならば、そこらのライトノベルやアニメでいっくらでも出てきていますからね。ま、タチコマの思考って機械である自分というのを十分に意識してネタにしているから、面白いんだろうけれどね。
それから、こいつは余談ですが、疑似生命というか、脳内投射というか・・・思考なぞつゆ行わない機械の方が、人間っぽい振る舞いをするのは、人間が本能的に物質に生命を投射したいという願望があるのではと思ってしまいます。特に人間が操作できる機械だったりすると。解りやすく言うと、PCのフリーズに思わず突っ込みどころか突きを入れたくなったり、逆に調子が良かったりすると思わず笑みが出る。車を運転していて、吹けが悪いと車を人のように気遣ったり、暫くして調子が良くなると誉めたくなったり可愛くなったり、事故車を見るとみょーに痛々しい感覚になったり。そういう意味でタチコマは実に感情移入しやすいのではないでしょうか。人間側にずいぶんすり寄ってますけれど。*2
はてさて、ひっさしぶりに書評で長文を書きましたが、攻殻SACのファンならずとも、素直に楽しめます。攻殻2の後半のような禅問答に近いやりとりはありませんが、バディ物が好きな人やアクション好きにもお勧めできます。以外と良書かも?

*1:というか、そんなのあるのか?人間が自分で作った機械だから、どう考えても起きようが無いと思う・・・んだけれど、射撃支援AIとか戦術支援AI、戦略支援AIってのを考えると、人殺しをする機械というのも十分にあり得るのかもしれない。流石に思考戦車は面白過ぎだけれども、雪風程度のAIというか知性体ってのは、十分に考えられると思う。というか、物言わぬ無個性だからこそ、人間というのは個性を見出そうと脳内補完するんだと思う

*2:この辺の感覚を含め、メカニックとしての攻殻が気になる人は、原作の第一巻のMEGATECH MACHINEを強く強くお勧めします