斥候

「どうだ?」「間違いない、奴らは本気だ。M-16A3、いやA4かも知れん。」
「本気って?」「マガジン叩き込んでやがる。」
「剥き身でか?」「抑止力としちゃ満点だろ?この国じゃ。」*1
折りたたむとボケットに入る双眼鏡を傍らに置くと、一瞬の逡巡のうちに決めた。
「よし、右の待機所から崩すぞ。」「少し待て。」
ステアリングを一度強く握り込み、そして添え直す。
「こんなもんじゃ相手にならないと思うが。」「無いよりはマシ。遥かに。」
フラッシュバング2つ、セ不ティピンを両脇のホルスターにかませると、P226のスライドを素早く引き、マガジンを一度抜く。手馴れた様子でホローポイントを一発込めるとマガジンを再装填、スライドを軽く引いて弾丸の装填を再確認する*2。もう一丁のP226にも同じ事を繰り返す。
シフトレバーをニュートラルにして、スロットルを半分ほど踏み込む*3
「それじゃ、威力偵察を開始。」「どこが。バンザイアタックって…言うんだよっ!」
ベタ踏みするや否や、シフトレバーをセカンドに入れる。軽いホイールスピンの後にリアが流れ出すが、ステアリング捌きで強引にカウンターを当てる。
『止まれ!止まらなければ発砲する!』
「先刻承知!」「台詞に芸が無い!」
フラッシュバングを引き抜き、ボンネットに転がすように投げる。閃光。視界が真っ白に染まる。ドアガラス越しだが委細構わずP226のトリガーを引き続ける*4
しかし流石というか、フラッシュバングの効力は皆無でM16のフルオートを浴びせられる。ボディはカンコンと間の抜けた音を立てるが、その実、死神がボディを叩いているのである。
「うおっ、やはり持ちそうにない!」「だからバンザイアタックだって!」
再びシフトレバーをニュートラルに戻すと、今度はサイドブレーキとアクセルを同時に引き上げ、踏みつける。そしてステアリングをロックぎりぎりまで右に回し*5、またセカンドに入れるとハンドルをセンターに戻す。ドライブシャフトがゴリゴリと音を立てるが無視。車は信地旋回よろしく180°*6を決め、タイヤのブロックとスリップマーク、右のサイドミラーとリアガラスを振りまきつつ、撤収した。
「くそう、解っちゃいたが洒落にならないな。」「当たり前だ。奴らテロでいつでも臨戦態勢だ*7。」
こうして、バンザイアタックは失敗した。いや、威力偵察だったか…。

*1:テロの所為もあるが、マジで弾倉入れているのが米軍。自衛隊の歩哨は弾倉を入れない。

*2:この状態をフルロードという。シューターでは当たり前だけれども警察や軍隊じゃ暴発が怖いのであまりやらないらしい。

*3:この状態をトルクスプリットと言う。オートマティック車でスタートダッシュをする時などに使える

*4:P226にはセフティが無い。日本のエアガンではセフティを付けなければいけないので苦労させられる点である

*5:ちなみにこのハンドルは30φという設定。35φ以下は車検に通らない、違法改造となる

*6:ワンエイティと読もう

*7:平和な軍隊ほどの無駄は無いが、とても有意義な無駄だと、個人的には思う